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医療費無料の実際

デンマークに住んでいると言うと、日本の人からは「医療や福祉が充実しているんでしょうね」と言われます。しかし実際に住んでみると、日本では報じられない仰天なシステムや日本では考えられないことに直面します。日本人の北欧の国に抱くイメージから今回は福祉の恩恵である医療の実際についてお伝えしようと思います。

 

医療費、出産費は無料が基本

デンマークでは医療費は税金で賄われ、無料です。もちろんそれはデンマーク国民だけでなく、わたしのようなデンマークで滞在許可を得ている移民もそうです。外来診療から数千万円を超える金額の入院治療まですべてです。わたし達日本人は“もしも”の病気や事故のために貯蓄をしたり保険に入ったりしますが、デンマークではそういった必要がないようです。

その他の検診、例えば女性であれば子宮頸がん検診の案内が来るのですが、それも無料で受けることができますし、それ以外でも専門の検診が必要な場合には無料で受けることができます。妊娠・出産にかかる費用もすべて無料です。妊婦になってからの定期検診、出産費、それから妊娠から出産後もサポートしてくれる助産師訪問も無料です。

不妊治療も無料で受けることができます。年齢制限はありますが、子ども(=将来の国の資産)をもち育てたいという気持ちがある国民を支援するのは国家として当たり前という感覚は日本にはないものかと一親として考えさせられます。

これはデンマークの民主主義国家としてのシステムに大きな影響を与えた有名な哲学者の考え“すべての人の基本的権利である医療と教育からお金をとるべきではない”という考えに基づいているとも言われています。

 

 

風邪をひいても病院に行けない!?

デンマークに来た頃、日本のような感覚で風邪をひいてクリニックに行っていました。医師から「お腹が痛い?素晴らしい!頭が痛い?素晴らしい!つまり君は生きているってことだよ!家に帰って寝て!」と何もせず追い返されたことがあります。

熱がある、咳や鼻水が止まらないという時、すぐに内科や耳鼻咽喉科などに行って診てもらい、必要な処置や投薬をしてもらうのが日本では当たり前です。しかし、そんな日本ではごく普通のことは、デンマークではまずありえません。

彼らの認識として、風邪というのはそもそも薬で抑えるものではなく、その人の治癒力を高める為にも1週間くらいゆっくり休んでその人の病気に対する抵抗力や戦う力をつけると考えられています。飲んでも一般販売されている痛み止めくらいで、学校も会社も休み皆ひたすら自宅で安静にするのです。

なるべく早くお医者さんに診てもらってすぐによくなるように薬を飲んで…というやり方は忙しく学校や会社を休めない日本独特のやり方なのかもしれません。

薬を飲むかどうかについては色々な考え方があるので一概に何をもって正しいとは言えませんが、デンマーク人は概ね、深刻でない病気で安易に薬を飲むと身体に抗体ができてしまって本当に薬が必要な状況で薬が効きにくくなる、自己治癒力・免疫力を高めることも大事だと考えている人が多いような印象です。普通に生活していれば病気になるのが当たり前、そんなときはゆっくり休むべき時なのだと捉えています。

一週間ほど休んだだけで、職場の業務上多大な損失があるとか、学校の授業についていけなくなるといった常に切羽詰まった状況にはない余裕のある環境だからそのようにして休めるのも理由の一つだと思います。

長い予約待ち

ではどんな時なら病院に行くのか(行ってよいのか)。まず身体に不調を感じた場合は自分のホームドクターに連絡をします。一人ひとりに割り当てられた担当の医師がいます。救急車を呼ぶ場合などを除いて、どんな病気でもまずはこの人に連絡をします。診察は予約制で運よく数日のうちに予約ができることもあれば、数週間待ちのこともあります。この時に、風邪などの軽い病気であると判断された場合は電話口で「家でゆっくり休んでなさい」と言われます。

必要と判断された場合のみホームドクターの診察を受けます。このホームドクターの処置・投薬で済むこともあれば、さらに専門的な検査や診察などが必要な場合は別の病院の専門医を紹介されます。そしてまた予約待ちとなるのです。ですので、最初の不調を感じてから必要な治療を受けるまでに数か月かかることもざらです。

医療費が無料である為、治療が必要なのかどうかをホームドクターの段階で見極めるという医療費節約のメリットはある一方で、本当に深刻な場合や、ホームドクターとの相性、患者の選択肢、治療に関するセカンドオピニオン、誤診といった点では不安な面もあります。

ちなみに医療費は無料ですが、薬代は有料です。

 

お薬手帳も診察カードもない

国民一人ひとりの個人番号(日本でいうマイナンバー)にはその人に関するほぼ全ての情報が含まれているといっても過言ではありません。医療に関して言えば、その人がどこの病院で生まれて、今までどこの病院にかかってきたか、どのホームドクターが担当したか、どんな検診を受けて、どんな診断を受けてきて、どんな薬を飲んでいてといった情報がその番号で全て把握できます。

日本だと、保険証だけでなくお薬手帳や健康手帳、健康診査カード、それぞれの診療所の診察カードを自分で管理しないといけません。デンマークでは医師は患者の個人番号で全ての情報を把握することができます。薬局はその番号から患者の投薬履歴を把握することができます。

 

歯科治療は自己負担

デンマークでは歯科治療は18歳までの子どもを除き自己負担で非常に高額であることで有名です。知り合いのデンマーク人(成人)が定期メンテナンスの為に歯科医で歯のチェックをしてもらったというだけ(歯石除去といった治療は全くしない)で500デンマーククローナ、日本円で約8000円かかったと言っていました。例えば、歯を一本抜かなければならい場合、諸々含めて約10万円以上かかると聞きます。その場合、日本行きの飛行機チケットを買って日本で治療した方が安く済むという話も聞きます。

 

その国の医療事情は病気や医療行為の捉え方の違いが基本にあることが分かります。軽い症状では身体の抗体をつけるために治療も薬も出さない一方で、深刻な病気の時には患者に治療費を心配させることなく十分な医療を提供するというのがデンマークの医療制度です。だからデンマーク人は高い税金にも納得しているのです。

一方で最近ではこのような公共医療に満足できない人達が民間の医療保険に加入し、自己負担のある私立の病院で早く質の高い医療を受けようとする傾向にあると聞きます。

デンマークには医師不足、公共医療の質の低下、治療待機期間の長期化、医療セクターの市場化など様々な問題があります。

完璧な医療システムにはどこにもなく、国には丁寧に国民のニーズを汲み取ってもらいたい一方で、私たち国民は折り合いと妥協をしながら、ある程度のところで満足してやっていくという点ではデンマークも日本も変わらないのかもしれません。

 

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