先日、デンマークを訪ねました。日本人は、勤勉であるにも関わらず、どうも幸せな働き方ができていないのではないかという疑問を持ち、世界的に幸福度が高いと評価されている北欧デンマークの秘密を知りたくなったのです。主なテーマは「生き方、働き方、学び方」という3つ。今回は、その中から、働き方についてお伝えしようと思います。

仕事は定時内に終わらせるのが大前提

日本では多くの企業が9時から18時を就業時間の定時としていますが、デンマークで定時は9時から17時、会社によっては8時から16時、そして金曜日の終了時間は、さらに早い傾向にあるそうです。定時が短いということは、残業が多いのだろうと思い、あるデンマーク人の共働きのご夫婦に、次のような質問をしてみました。
「残業をしたら、もちろん、残業代は支払われるのですよね?」
これについては、愚問でした。なぜならば、残業をしないから、このご夫婦にとっては“残業代”という概念が無いのです。しかも、残業をしないのは、現場スタッフだけでなく、管理職もほぼ、残業をしない職場なのだそうなのです。管理職の残業は、あるとしても週に7時間程度。つまり、1日に1時間半以上も定時以降に会社に残っていることは無いのです。

それは、デンマーク人の国民性にあるようです。デンマーク人は、日本人のように“がむしゃらに働く”という事は、あまりありません。それは、働くことが嫌いであるとか、勤勉ではないということとは違います。実際、デンマーク人は、非常に勤勉で、時間についてはとても正確ですし、限られた資源を効率的に使います。実は、仕事においては「自分の出来る事以上に、無理をしない」のです。「昇進のため」「お金のため」「名声のため」ということが働く動機にはなり難く、「社会に貢献できれば・・・」という気持ちで働いています。また、仕事の選び方も、自分が何をしたいのかをしっかりと考えて選んでいるので、有名企業だからという理由や給料が高いからというだけで選ぶケースもほとんどありません。これらの背景にあるのは「幸せかどうか」。そのため、過剰なまでに仕事を中心とした生活をし、家族との時間や自分の時間を失うということを好みません。

だからこそ、限られた時間内に効率的に仕事をする方法を考えて進めているのです。また、そのように効率的に進め、生産性が高い仕事が出来るのは、学校教育とも関連しているようです。大人になってからクリティカルシンキングやデザイン思考を学び直すのではなく、「なぜ、そうなのか?」「自分ならどう考えるか?」「それぞれのアイデアを持ち寄るとどのようなことができるか?」という考え方が、子どもの頃からの日常の習慣として培われているのです。

職場が“幸せ”でなくてはいけない?!

次に、職場環境について見てみましょう。“社員は幸せである責任がある”ということを国が企業に課しています。ここで言う“幸せ”とは、物質的に満たされていることではありません。例えば、以下のようなことです。

  • 自分がやりたい事がやれているか
  • 職場の同僚とはうまくやっているか
  • 上司との関係が良いか
  • 仕事から自分自身が得られている満足観があるか

これらの例にあげられたように、部下が職場で幸せかどうか、上司(管理職)は責任を持つ必要があるのです。部下がストレスを抱え、仕事に支障が出ているとしたら、それは、上司の責任です。デンマークの職場では、“対話”を非常に大事にしています。対話を通して、互いを理解し合い、信頼関係を深め、正当なパフォーマンス評価がされるようになっています。上司の個人的な感情等で評価が左右されることはないので、上司のご機嫌取りも不要です。ですから、部下は自分を必要以上に大きく見せる必要も無いですし、いつでもありのままの自分でいられるのです。

また、デンマークでは、「人と違っていても良い」という考え方があります。つまり、他の人と同じレベルで一律に何でもこなすことよりも、その人ならではの強みが活かされていることのほうが重要です。出来ないことは、出来る人がやれば良いという助け合いの文化があります。ですから、上司や同僚から「そんなこともできないのか」というプレッシャーをかけられることもないですし、一人一人の個性や、あり方が大切にされています。

ひとりひとりの個性を大事にして、意見を聞いていたら、仕事が進まないのではないか?というとその逆です。個人の力としては、時間を効果的に使える計画性と段取り力が備わっている上に、自分で考えて仕事を進める自由度があります。さらに、個人においては自律的ですが、組織・チームにおいては非常に民主主義的です。例えば、物事を決める多くの場でも、“対話”を通してみんなで決定していきます。この対話は、誰もが発言ができる場で、立場は関係ありません。上司は、これらの話を聞きながら、最終的に何が必要かを見出していく役割があります。つまり、上司が一人で決めて、一方的に指示や命令を出すというやり方ではないのです。この方法は、早い段階から様々な立場の関係者が参加し、各々が納得した状態で進んでいくので、一度スタートしたプロジェクト等には、手戻りが少ないのです。このような “自分は自分、他人は他人、でも、民主主義は大事”というデンマークの国民性とも言える心地よいバランスは、職場環境においても活かされています。そして、その結果、長時間労働や職場ストレス等が少なく、効率的に成果をだせる組織になっているのです。

子どもがいることはハードルにはならない

 

また、育児と仕事の環境についてみると、女性と男性は、それぞれ、6ヶ月毎の育児休暇を取得できます。更に、企業は休暇から復職する女性を産休前と同じポジションに戻す義務があり、そうでない場合(降格や異動)は違反になるのです。また、保育園数についても国が出生動向を把握しており、必要数を事前に算定して、子どもを安心して預けられる環境を用意しているのです。そして、職場の意識も、子どもがいることについて、好意的に受け入れられていることが多いようです。例えば、子どもが急な病気のため、仕事を休まなくなってしまった場合に、予定されていた会議を別の日程に変更するなど、それぞれの状況をお互いさまとして理解し合いながら、みんなで働きやすい職場を作っていこうということが前提になっています。ですから、男性も女性も、同じように働く機会を持ち続けることができているのです。

幸せな働き方を考える

まだまだ、長時間労働、人間関係のストレス、失敗ができない緊張状態や過度のプレッシャーなどの課題を抱える日本の職場環境。今回のデンマークは一例ですが、日本でも取り入れられる考え方は、たくさんありそうです。職場は、人生の大半を過ごす場所。だからこそ、自分自身のやりがいや存在意義を感じながら、仕事を通じて幸せを感じられる職場環境作りと、ひとりひとりの働き方に対する意識改革を、今後、ますます進めていく必要があるのです。

記事:犬尾陽子(2016.11)

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